精密加工品
真鍮加工の方法とコツについて徹底解説
真鍮は、その美しい輝きと加工しやすさから、DIYによるアクセサリー製作から工業製品まで幅広く利用されています。
しかし、加工しやすいとされる一方で、専門的な知識がないと難しい側面も持ち合わせています。
この記事では、真鍮加工の基本的な方法やコツ、加工が難しいとされる理由を解説します。
また、自分だけのオリジナルアクセサリーを作りたい人に向けて、DIYの手順や専門家へ製作を依頼する際のポイントも紹介します。
そもそも真鍮とは?加工で知っておきたい素材の特徴

真鍮とは、銅と亜鉛を主成分とする合金で、ブラスとも呼ばれる金属です。
その配合比率によって性質が異なり、様々な種類が存在します。
黄金色の美しい輝きを持ち、時間と共に風合いが変化する点が大きな魅力です。
加工性に優れているため、私たちの身の回りにある多くの製品に利用されています。
真鍮加工を行う上では、こうした素材の基本的な特徴を理解しておくことが重要になります。
銅と亜鉛から作られる美しい黄金色の合金
真鍮は銅と亜鉛の合金であり、亜鉛の含有率は一般的に5%から40%程度まで変化します。亜鉛の割合が増すほど金色に近づき、硬度も増しますが、一定の割合を超えると脆くなる性質があります。
この金属の大きな特徴は、経年変化(エイジング)を楽しめる点です。新品の状態では美しい光沢を放ちますが、空気や人の手に触れることで酸化し、徐々にくすみや黒ずみが生じます。このアンティーク調の風合いが魅力とされる一方で、湿気の多い環境では緑青(ろくしょう)と呼ばれる青緑色のサビが発生することもあります。ただし、鉄の赤サビとは異なり、緑青は内部の腐食を防ぐ保護膜の役割を果たします。
加工性の高さから幅広い製品に活用されている
真鍮は、様々な加工がしやすいという優れた特性を持っています。
特に切削性が高く、ドリルや旋盤での精密な加工に適しています。
また、展延性にも富んでおり、叩いたり延ばしたりすることで薄板や線状にすることが容易です。
熱を加えて溶かし、型に流し込む鋳造にも向いています。
こうした加工性の高さから、ネジやナットなどの機械部品、楽器の金管楽器、仏具、アクセサリー、建築金物まで、非常に幅広い製品に活用されています。
素材としても丸棒や板、パイプなど多様な形状で供給されており、目的や用途に応じて選択することが可能です。
【工程別】真鍮の代表的な5つの加工方法

真鍮を目的の形に仕上げるまでには、いくつかの工程を経る必要があります。
ここでは、代表的な5つの加工法について、それぞれの特徴と役割を解説します。
どのような製品を作るかによって、これらの方法を組み合わせたり、特定の加工法に特化したりします。
素材の特性を理解し、適切な加工条件を見極めることが、高品質な仕上がりにつながります。
手作業から機械加工まで、その方法は多岐にわたります。
希望の形状に切り出す「切断加工」
真鍮の加工は、まず材料を必要な大きさに切り出す「切断」から始まります。
DIYなど小規模な加工では、糸鋸や金鋸といった手工具が使われることが一般的です。
一方、工業的な生産現場では、シャーリングという機械で板材を直線的に断裁したり、レーザー加工機を用いて複雑な形状を精密に切り抜いたりします。
特にレーザー加工は、デザイン性の高い製品を作る際に有効ですが、真鍮は光を反射しやすく熱伝導率も高いため、加工には高い技術と専用の設備が求められます。
切断方法の選択は、製作するものの形状や精度、数によって決まります。
ドリルや旋盤で精密に削る「切削加工」
切削加工は、ドリルや刃物を使って材料を削り、精密な形状を作り出す方法です。
具体的には、ドリルによる穴あけ加工、旋盤で材料を回転させて削る旋削加工、フライス盤で材料を固定して削るフライス加工などがあります。
また、ネジ穴を作る際にはタップという工具が用いられます。
真鍮は他の金属に比べて削りやすいため切削加工に適していますが、高い精度を出すには適切な工具の選定や回転数の設定が不可欠です。
加工時には摩擦熱を抑え、切りくずをスムーズに排出するために切削油を使用することが多く、この油の管理も品質を左右する重要な要素となります。
プレス機や手作業で折り曲げる「曲げ加工」
真鍮は柔らかく延びやすい性質を持つため、曲げ加工に適した金属です。
プレスブレーキなどの機械を使用し、圧力をかけて板材をL字や箱状に成形します。
アクセサリー製作のような手作業では、治具や工具を使って手で曲げたり、ねじりを加えてツイストさせたりと、自由度の高い造形が可能です。
ただし、真鍮には一度曲げると硬くなる「加工硬化」という性質があります。
そのため、何度も同じ箇所を曲げ伸ばしすると、金属疲労によってひび割れや破損を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
この性質を理解し、計画的に曲げ作業を行うことが求められます。
パーツ同士をつなぎ合わせる「溶接・ロウ付け」
複数の真鍮パーツをつなぎ合わせる際には、溶接やロウ付けといった接合方法が用いられます。
溶接は、素材自体を高温で溶かして一体化させる方法ですが、真鍮は主成分である亜鉛の融点が低く、加熱時に蒸発しやすいため、非常に高度な技術を要します。
そのため、特にアクセサリー製作などでは、母材よりも低い温度で溶ける銀ロウなどの合金(ロウ材)を使って接合する「ロウ付け」が一般的です。
ロウ付けは、適切な温度管理と均一な熱の加え方が重要で、接合部の強度や仕上がりの美しさに大きく影響します。
鏡面やアンティーク調に仕上げる「表面処理」
加工の最終工程として、製品の見た目や質感を決定づける表面処理が行われます。
最も一般的なのは研磨で、サンドペーパーや研磨剤を使って表面を磨き上げ、光沢のある鏡面仕上げにします。
一方で、真鍮特有の経年変化を活かした仕上げも人気があります。
例えば、薬品を使って意図的に表面を酸化させ、黒く古びた風合いを出す「いぶし加工」や、アンティーク風の質感を表現する「古美仕上げ」などです。
これらの表面処理によって、同じ形状の製品でも全く異なる印象を与え、独自の価値を持たせることが可能になります。
プロの技術が必要?真鍮の加工が難しいとされる理由

真鍮は加工しやすい金属として知られていますが、それはあくまで他の金属と比較した場合の話です。
実際には、プロの知識や技術がなければ難しい側面も多く存在します。
特に、精密な寸法が求められる工業製品や、高品質な仕上がりを要求される装飾品の場合、素材の特性を深く理解し、適切な機械や工具を使いこなす技術が不可欠です。
ここでは、真鍮の加工が専門家向けとされる具体的な理由を解説します。
亜鉛の含有率によって加工の難易度が変化する
真鍮が難しいとされる理由の一つに、銅と亜鉛の含有率によってその性質が大きく変化する点が挙げられます。
例えば、亜鉛の割合が高い「黄銅2種(C2801)」は硬度が高く、切削加工時に切りくずが細かくなるため加工しやすいですが、粘り気が少ないため曲げ加工では割れやすくなります。
一方で、亜鉛が少ない「黄銅1種(C2600)」は展延性に優れ曲げやすいですが、切削時には粘りが出て加工しにくい側面があります。
このように、ステンレスのような比較的均質な金属とは異なり、真鍮の種類ごとに最適な加工条件を見極める必要があり、その選定には専門的な知識と経験が求められます。
加工時に発生する切りくずの処理に専門知識が求められる
切削加工の際に発生する切りくずの処理も真鍮加工の難しさの一つです。
真鍮、特に快削黄銅と呼ばれる種類のものは切りくずが細かく鋭利な針状になりやすい特徴があります。
この切りくずは加工機械の隙間に入り込んだり工具に絡みついたりして故障や加工精度の低下を引き起こす原因となります。
木材を加工した際に出るおがくずとは異なり放置すると危険なだけでなく製品の品質に直接影響します。
そのため切りくずが適切に排出されるよう工具の形状を工夫したり切削油の種類や量を調整したりといった専門的なノウハウに基づいた対策が不可欠です。
まとめ
真鍮は、銅と亜鉛の合金で、美しい黄金色と加工性の高さが特徴の金属です。
その特性から、DIYでのアクセサリー製作から工業製品まで多岐にわたる品に利用されています。
加工には切断、切削、曲げ、溶接、表面処理といった様々な方法がありますが、亜鉛の含有率によって性質が変化するため、専門的な知識が求められる場面も少なくありません。
個人で楽しむ場合は、基本的な工具を揃えれば簡単なアクセサリーを作ることが可能です。
より複雑なデザインや高品質な仕上がりを望むのであれば、専門業者や作家にオーダーメイドを依頼するのも一つの有効な手段です。
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