精密加工品
熱処理の種類一覧|基本4種・表面処理・目的別の方法をわかりやすく解説
熱処理は、金属製品の性能を決定づける重要な加工技術です。
この記事では、数ある熱処理方法の中から、まず理解すべき基本的な種類を一覧で解説します。
製品全体を処理するのか、表面のみを処理するのかといった分類から、具体的な熱処理方法の例、さらに「硬くしたい」「加工しやすくしたい」といった目的別の選び方までを網羅的に紹介します。
一覧表を見るような感覚で、それぞれの処理がどのような効果をもたらすのかを把握できます。

熱処理とは?金属の性質を変化させるための加工技術
熱処理とは、金属材料を加熱・冷却することで内部の組織を変化させ、硬さや粘り強さ、耐摩耗性といった機械的性質を改善する加工技術です。
英語では「HeatTreatment」と表記されます。
適切な熱処理を施すことで、同じ金属でも用途に応じた最適な状態に調整することが可能です。
この熱処理の基礎知識は、材料の選定や部品設計、加工方法の検討において不可欠であり、製品の品質や寿命を大きく左右する重要な要素となります。
【処理範囲で分類】熱処理は2つのタイプに大別される
熱処理は、加工を施す範囲によって「全体熱処理」と「表面熱処理」の2種類に大きく分類されます。
全体熱処理は部品の内部まで均一に性質を変化させるのが特徴で、一方の表面熱処理は表面層のみを硬化させます。
この使い分けは、部品に求められる性能によって決まります。
例えば、部品全体に強度が必要な場合は全体熱処理を、表面の耐摩耗性と内部の靭性を両立させたい場合は表面熱処理が選ばれます。
部品全体を均一に処理する「全体熱処理」
全体熱処理は、製品全体を加熱・冷却することで、内部まで均一な組織と性質を得るための方法です。
この処理は、熱処理炉と呼ばれる専用の設備を使用して行われます。
製品を炉の中に入れ、定められた温度まで加熱した後、適切な速度で冷却することで目的の性質を引き出します。
炉の温度管理や冷却方法を精密に制御することで、硬さや粘り強さといった機械的性質を部品全体にわたって均一に付与できます。
焼入れや焼なましといった基本的な熱処理は、この全体熱処理に分類されます。
部品の表面層だけを硬化させる「表面熱処理」
表面熱処理は、部品の表面層のみを選択的に硬化させ、内部は元の柔軟な性質を維持する加工方法です。
この処理により、表面は耐摩耗性や耐疲労性に優れ、内部は衝撃に強いという二つの特性を両立できます。
例えば、歯車のように表面は硬く、芯部は粘り強さが必要な部品に適用されます。
高周波焼入れや浸炭処理などが代表的で、製品の寿命を延ばし、性能を向上させる目的で広く利用されています。
必要な部分だけを処理するため、全体熱処理に比べて変形が少ないのも特徴です。
まず覚えるべき!鉄鋼熱処理の基本4種類(全体熱処理)
鉄や鋼といった鉄鋼材料の性質を理解する上で、まず覚えるべき基本の熱処理が4つあります。
これらはすべて全体熱処理に分類され、鋼の持つ潜在能力を最大限に引き出すために不可欠な技術です。
具体的には「焼入れ」「焼戻し」「焼なまし」「焼ならし」がこれにあたり、それぞれの処理で鋼材の硬さや粘り、加工性が大きく変化します。
これらの基本的な4つの熱処理を理解することは、適切な材料選定や設計を行うための第一歩です。
焼入れ:金属を硬くするための基本的な処理
焼入れは、鋼をオーステナイト組織と呼ばれる高温状態まで加熱した後、水や油などを用いて急冷することで、マルテンサイトという非常に硬い組織に変化させる熱処理です。
この処理によって、鋼の硬度や耐摩耗性が飛躍的に向上します。
冷却速度が重要であり、速すぎると割れや変形が生じ、遅すぎると十分な硬さが得られません。
そのため、材料の種類や形状に応じて、水、油、あるいはガスや空冷といった適切な冷却媒体を選択する必要があります。
焼入れは、工具や刃物、機械部品などの強度を高めるために広く用いられています。
焼戻し:焼入れ後の金属に粘り強さを与える処理
焼戻しは、焼入れによって硬化した鋼に粘り強さ(靭性)を与えるために行う熱処理です。
焼入れされたままの鋼は非常に硬い一方で、衝撃に弱く脆い性質を持っています。
そこで、焼入れ後に比較的低い温度(約150〜650℃)で再加熱し、一定時間保持した後に冷却することで、硬さを適度に調整しつつ、粘り強さを向上させます。
この焼入れと焼戻しの一連の処理は「調質」と呼ばれ、多くの場合セットで実施されます。
焼戻しの温度によって硬さと粘り強さのバランスが変わるため、部品の用途に応じて最適な条件が設定されます。
焼なまし:金属を柔らかくして加工しやすくする処理
焼なましは、金属を適切な温度まで加熱し、その温度で一定時間保持した後にゆっくりと冷却する熱処理です。
「焼きなまし」とも呼ばれ、主な目的は金属の軟化です。
加工によって硬くなった金属を柔らかくして、その後の切削加工や塑性加工を容易にします。
また、鋳造や鍛造などで生じた内部のひずみ(内部応力)を取り除き、組織を均一化する効果もあります。
これにより、加工後の寸法変化や変形を防ぎ、安定した品質の製品を作ることができます。
加工の前工程として非常に重要な役割を担う処理です。
焼ならし:金属の内部組織を均一化・標準化する処理
焼ならしは、鋼を適切な温度に加熱した後、一般的に空気中で放冷する熱処理です。
「焼きならし」とも呼ばれ、主な目的は鋳造や鍛造などで生じた不均一な金属組織を、標準的で均一な状態に整えることです。
結晶粒が微細化されることで、機械的性質、特に強度や靭性が向上します。
焼なましと似ていますが、冷却速度が速いため、焼なましよりも組織が細かく、硬さや強度が高くなる傾向があります。
より精度の高い焼入れや焼なましを行うための前処理として実施されることも多い、重要な工程です。
表面だけを硬くする代表的な表面熱処理の種類
表面熱処理は、部品の内部の強靭性を維持しながら、表面層に硬さや耐摩耗性、耐食性といった特殊な性質を付与する技術です。
製品寿命や性能を向上させるために、多くの機械部品で利用されています。
ここでは、その中でも代表的な種類である「高周波焼入れ」「浸炭処理」「窒化処理」について解説します。
これらの方法は、それぞれ異なる原理で表面を改質し、用途に応じて使い分けられます。
高周波焼入れ:高周波コイルで表面だけを急速に加熱・冷却する
高周波焼入れは、高周波電流を流したコイルの中に部品を置き、電磁誘導作用によって表面だけを急速に加熱し、直後に冷却することで表面層のみを硬化させる表面熱処理の一種です。
加熱時間が非常に短く、必要な部分だけを選択的に処理できるため、製品全体の変形が少なく、寸法精度を維持しやすいのが大きな利点です。
また、自動化が容易で生産性が高いため、自動車のシャフトや歯車、工作機械の摺動面など、大量生産される部品に広く採用されています。
内部の靭性を保ちつつ、表面の耐摩耗性や疲労強度を向上させたい場合に適した方法です。
浸炭処理:表面に炭素を浸透させてから焼入れする
浸炭処理は、炭素含有量の低い鋼(低炭素鋼)の表面に炭素を浸透させ、表面層を高炭素鋼の状態にした後、焼入れ・焼戻しを行う熱処理です。
この処理により、表面は非常に硬く耐摩耗性に優れ、一方で材料の中心部(内部)は元の低炭素鋼の性質である粘り強さを保つことができます。
このため、硬さと強靭性の両方が求められる歯車やシャフト、ピストンピンなどの部品に広く用いられます。
炭素を浸透させる方法には、ガス中で行うガス浸炭が一般的ですが、他にも固体や液体を用いる方法もあります。
窒化処理:表面に窒素を浸透させて耐摩耗性や耐食性を高める
窒化処理は、鋼の表面に窒素原子を浸透・拡散させ、表面層に硬い窒化物の層を形成する表面熱処理です。
この窒化物層により、表面硬度が大幅に向上し、優れた耐摩耗性や耐疲労性、耐食性が得られます。
浸炭処理と比べて低い温度(約500〜600℃)で処理されるため、焼入れを伴わず、寸法変化や変形が非常に少ないのが大きな特徴です。
このため、精密な金型やエンジン部品、シリンダーなど、高い寸法精度が要求される部品に適用されます。
ガスの種類により、ガス窒化や塩浴窒化、プラズマ窒化などの方法があります。
【目的別】どの熱処理を選ぶべき?用途に応じた選び方
熱処理には様々な種類があり、製品にどのような性能を持たせたいかという目的によって適切な方法を選ぶ必要があります。
例えば、工具や金型のように硬さが求められるもの、構造部品のように粘り強さが必要なものなど、用途は多岐にわたります。
ここでは「硬度」「靭性」「加工性」「組織の均一性」「耐摩耗性」といった代表的な目的に焦点を当て、それぞれに適した熱処理の選び方を解説します。
とにかく硬度を高めたい場合
金属の硬度を最大限に高めたい場合、最も基本的な選択肢は「焼入れ」です。
鋼を高温から急冷することで、非常に硬いマルテンサイト組織を得られます。
これにより、耐摩耗性や強度が向上します。
ただし、焼入れだけでは脆くなるため、強い衝撃がかかる用途には向きません。
部品の表面だけを硬くしたい場合は、「高周波焼入れ」や「浸炭処理」「窒化処理」といった表面熱処理が適しています。
これらの方法は、内部の靭性を維持したまま表面硬度を上げられるため、硬さと耐久性を両立させたい場合に有効です。
硬さと粘り強さを両立させたい場合
多くの機械部品では、単に硬いだけでなく、衝撃に耐える粘り強さ(靭性)も同時に要求されます。
このような硬さと粘り強さのバランスを取りたい場合に最も適しているのが、「焼入れ」と「焼戻し」を組み合わせた「調質」です。
焼入れで硬度を高めた後、焼戻しを行うことで脆さを改善し、粘り強さを付与します。
焼戻しの温度を調整することで、求める硬さと粘りのバランスに精密にコントロールすることが可能です。
また、表面は硬く内部は粘り強くしたい場合は「浸炭処理」も有効な選択肢となります。
切削などの加工をしやすくしたい場合
材料が硬すぎると、切削工具の刃が摩耗しやすくなったり、加工に時間がかかったりするため、効率的な加工が難しくなります。
このような場合に、金属を柔らかくして加工性を向上させる目的で行われるのが「焼なまし(焼きなまし)」です。
この処理により、金属組織が安定し軟化するため、ドリルでの穴あけや旋盤での切削といった機械加工が容易になります。
また、加工によって発生した内部のひずみを取り除く効果もあるため、加工精度の向上にも寄与します。
塑性加工や切削加工を行う前の前処理として広く用いられます。
金属組織のばらつきをなくしたい場合
鋳造や鍛造、圧延といった工程を経た金属材料は、内部の結晶組織が不均一になりがちです。
組織にばらつきがあると、機械的性質が不安定になり、後の熱処理で割れや変形が生じる原因にもなります。
このような組織の不均一を解消し、結晶粒を微細で均一な状態に整えるのが「焼ならし(焼きならし)」です。
この処理により、強度や靭性といった機械的性質が改善され、品質のばらつきが少なくなります。
焼入れなどの本格的な熱処理を行う前の前処理として実施することで、より安定した処理結果を得ることができます。
表面の耐摩耗性を向上させたい場合
歯車や軸受、金型など、他の部品と接触しながら摺動する部品には、表面の耐摩耗性が極めて重要です。
部品の表面が摩耗すると、機能不全や寿命の低下に直結します。
このような用途には、表面を選択的に硬化させる「表面熱処理」が最適です。
「高周波焼入れ」は必要な部分だけを短時間で硬化でき、「浸炭処理」は表面に硬い炭素層を形成します。
また、「窒化処理」は変形が少なく、耐摩耗性に加えて耐食性も向上させます。
これらの処理は、内部の靭性を損なうことなく、表面の耐久性を飛躍的に高めることができます。
熱処理の種類に関するよくある質問
ここでは熱処理に関して実務担当者や学習者から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。
寸法変化の有無や鉄鋼以外の金属への適用可能性、図面記号の意味など、基本的ながらも重要なポイントを解説します。
熱処理を行うと製品の寸法は変化しますか?
はい、変化します。
加熱による熱膨張や冷却による収縮に加え、焼入れ時のマルテンサイト変態のように金属組織が変化することで体積が変わるためです。
この寸法変化や形状の歪みを見越して、熱処理後には研削などの仕上げ加工を行うのが一般的です。
ステンレスやアルミニウムにも熱処理は可能ですか?
はい、可能です。
ただし、鉄鋼とは目的や処理方法が異なります。
ステンレスでは、オーステナイト系に行う固溶化熱処理や、析出硬化系に行う時効処理などがあります。
アルミニウム合金でも、強度を高めるための溶体化処理や時効処理が行われます。
図面で見る「S45C-H」のような記号は何を意味しますか?
材料名の後ろに付く「-H」などの記号は、熱処理が施されていることを示すものです。
例えば「S45C」は機械構造用炭素鋼の材料名ですが、「S45C-H」はJIS規格において焼入れ・焼戻し(調質)が施され、一定の硬さが保証されていることを意味します。
まとめ
熱処理は、金属材料の性能を最大限に引き出すための重要な工程です。
本記事では、熱処理を処理範囲によって「全体熱処理」と「表面熱処理」に大別し、それぞれの代表的な種類について解説しました。
全体熱処理の基本となるのは「焼入れ」「焼戻し」「焼なまし」「焼ならし」の4種類で、硬さや粘り、加工性を調整する役割を持ちます。
一方、高周波焼入れや浸炭処理といった表面熱処理は、部品の表面の耐摩耗性を高める際に用いられます。
これらの種類と特徴を理解し、製品に求められる性能に応じて適切な方法を選択することが、高品質なものづくりにおいて不可欠です。
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