精密加工品
鋳鉄とは?鋼との違いや種類別の特徴、加工のポイントを解説
鋳鉄とは、その優れた鋳造性から様々な形状に加工できる鉄合金の一種です。
本記事では、鋳鉄の基本的な定義から、よく比較される鋼との違い、そして用途に応じて使い分けられる鋳鉄の種類とそれぞれの特徴について詳しく解説します。
さらに、切削や溶接といった具体的な加工を行う際のポイントにも触れ、鋳鉄に関する網羅的な情報を提供します。
鋳鉄とは?基本的な定義をわかりやすく解説
鋳鉄とは、主成分である鉄に炭素を2.1%以上、ケイ素を1〜3%程度含んだ鉄合金の総称で、英語では「CastIron」と表記されます。
この炭素含有量の多さが鋳鉄の大きな特徴であり、その成分や冷え方によって黒鉛の形状や基地組織が変化し、多様な特性を示します。
一般的に鋳鉄の比重は約7.2〜7.3で、鋼よりもわずかに軽い素材です。
見た目は黒鉛の色を反映して黒っぽいものが多く、マンホールの蓋など身近な製品にも利用されています。
鉄の5元素(炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄)のバランスが、その機械的性質に大きく影響します。
鋳鉄と鋼の決定的な違いは炭素含有量
鋳鉄と鋼を区別する最も決定的な違いは炭素含有量にあります。
炭素量が2.1%を超える鉄合金が鋳鉄、2.1%以下のものが鋼と定義されます。
炭素鋼は鋼の一種であり鋳鉄とは明確に異なります。
また、鋳造によって作られた鋼は鋳鋼と呼ばれ、製造方法は同じですが材料としては別物です。
鋳鉄は炭素量が多いために融点が低く、溶けた金属の流動性が良いため複雑な形状の製品を作る鋳造に適しています。
一方、鋼は鍛造によって強度を高める加工が可能です。
耐食性に優れたステンレスや軽量なアルミとも異なる特性を持ち、用途に応じて使い分けられます。
鋳鉄と鋳物の関係性について
鋳物とは、加熱して溶かした金属を型に流し込み、冷やし固めて作られた製品の総称であり、この製造方法を鋳造と呼びます。
一方で鋳鉄は、その鋳物を作るための材料の一種を指す言葉です。
つまり、鋳鉄という素材を用いて鋳造という方法で作られた物が鋳鉄鋳物となります。
鋳造では、インゴットと呼ばれる金属の塊を溶かし、目的の形状を持つ鋳型に流し込むことで、複雑な形状の製品を一体で製造することが可能です。
身近な例としては、自動車のエンジン部品やマンホールの蓋、調理器具などが挙げられ、鋳鉄は鋳物用材料として非常に重要な役割を担っています。
鋳鉄が持つ優れたメリット
鋳鉄は多くの優れたメリットを持つ材料です。
最大の利点の一つに、内部に含まれる黒鉛による高い振動吸収性が挙げられます。
この性質により、工作機械のベッドなど、振動を嫌う部品に最適です。
また、黒鉛は熱伝導率を高める効果もあり、調理器具やブレーキ部品にも適しています。
鋼に比べて融点が低いため、溶解しやすく鋳造性に優れる点も大きなメリットです。
複雑な形状の製品を効率的に製造できることに繋がります。
さらに、種類によってはケイ素などの成分が表面に緻密な保護皮膜を形成するため、優れた耐食性や耐熱性を発揮します。
知っておきたい鋳鉄のデメリット
鋳鉄は多くの利点を持つ一方で、いくつかのデメリットも存在します。
最も代表的な欠点が、靭性が低く「もろい」という性質です。
硬度は高いものの、強い衝撃が加わると変形せずに割れやすい傾向があります。
このため、曲げや引張りの力が大きくかかる部品には向きません。
また、鋳造という製造プロセスの特性上、「巣」や「引け巣」と呼ばれる内部欠陥が発生しやすい点も課題です。
これは製品の強度を低下させる原因となります。
鉄であるため、環境によってはサビ(酸化)が発生しやすいのもデメリットです。
成分に含まれる硫黄はもろさの原因となり、鉛などの不純物も機械的性質に悪影響を及ぼすことがあります。
【種類別】鋳鉄の主な7つの分類とそれぞれの特徴
鋳鉄は、その組成や冷却速度によって内部の組織が変化し、様々な種類に分類されます。
分類の主な基準は、炭素がどのような形で存在するか、特に黒鉛の形状です。
破断面の色や見た目から名付けられたものも多く、JISなどの規格によって機械的性質が規定されています。
各メーカーはこれらの規格に基づき、用途に応じた鋳鉄を製造しています。
代表的な種類として、ねずみ鋳鉄、白鋳鉄、ダクタイル鋳鉄などがあり、それぞれが異なる特徴を持つため、設計時には目的の性能に合った種類の選定が重要となります。
ねずみ鋳鉄(FC):最も一般的に使用される鋳鉄
ねずみ鋳鉄は、普通鋳鉄とも呼ばれ、鋳鉄の中で最も生産量が多く、一般的に使用される種類です。
破断面がねずみ色であることからこの名が付きました。
組織内に含まれる片状黒鉛が最大の特徴で、この黒鉛が潤滑剤のような役割を果たすため、優れた切削加工性を持ちます。
また、振動を吸収する能力(減衰能)が高く、工作機械のベッドやベースといった部品に最適です。
さらに、黒鉛の存在は熱伝導性を良くする効果もあります。
代表的な用途には、マンホールの蓋、自動車のブレーキロータ、水道のバルブ、そして歴史的な建造物の門扉など、多岐にわたります。
白鋳鉄:硬度が高いが、もろさも併せ持つ
白鋳鉄は、炭素の大部分が黒鉛として晶出せず、鉄の化合物であるセメンタイトとして存在する鋳鉄です。
破断面が白く輝いて見えることからこの名前が付けられました。
セメンタイトは非常に硬い組織であるため、白鋳鉄は極めて高い硬度と優れた耐摩耗性を持ちます。
しかしその反面、非常に脆く、靭性が低いため衝撃に弱いという欠点を併せ持ちます。
鋳物の表面を急冷することで意図的に白鋳鉄組織を形成させる技術を「チル(チル化)」と呼びます。
この特性を活かし、圧延機のロールや粉砕機のライナーなど、高い耐摩耗性が要求される部品に利用されます。
まだら鋳鉄:ねずみ鋳鉄と白鋳鉄の中間的な性質
まだら鋳鉄は、破断面にねずみ鋳鉄の灰色部分と白鋳鉄の白色部分がまだら模様に混在して現れる鋳鉄です。これは、組織内に片状黒鉛とセメンタイトが共存していることを示しています。その性質は、ねずみ鋳鉄と白鋳鉄の中間的な特性を持ち、ねずみ鋳鉄よりは硬く、白鋳鉄よりは靭性があります。
まだら鋳鉄は、特性が不安定であるため、意図的に製造されることは少なく、一般的な構造材としての利用はほとんどありません。 主に研究用途や特殊部品で扱われる鋳鉄です。 両者の特性を併せ持つため、特定の用途において価値を持つ材料です。
ダクタイル鋳鉄(FCD):強度と延性を両立した鋳鉄
ダクタイル鋳鉄は、溶かした鋳鉄にマグネシウムやセリウムなどを添加し、黒鉛を球状化させた鋳鉄で、ノジュラー黒鉛鋳鉄とも呼ばれます。
黒鉛が球状になることで、応力集中が緩和され、ねずみ鋳鉄の弱点であったもろさが大幅に改善されています。
その結果、鋼に匹敵する高い強度と延性(粘り強さ)を両立しているのが最大の特徴です。
この優れた機械的性質から、高い信頼性が求められる部品に広く使用されており、代表的な用途として、水道管やガス管などの配管、管継手、自動車のエンジン部品やホイール、クランクシャフトなどが挙げられます。
CV鋳鉄(FCV):黒鉛形状が特徴的な鋳鉄
CV鋳鉄は「Compacted Vermicular Cast Iron」の略で、その黒鉛形状に最大の特徴があります。
組織内の黒鉛が、ねずみ鋳鉄の片状とダクタイル鋳鉄の球状の中間である、短く厚みのあるいも虫状(バーミキュラ状)をしています。
この独特な黒鉛形状により、CV鋳鉄はねずみ鋳鉄が持つ優れた熱伝導性や振動吸収性と、ダクタイル鋳鉄が持つ高い強度をバランス良く兼ね備えています。
このため、高強度と良好な熱伝導性が同時に要求される、高出力エンジンのシリンダーヘッドやエキゾーストマニホールドといった、過酷な条件下で使用される部品への応用が進んでいます。
可鍛鋳鉄:熱処理によって粘り強さを向上
可鍛鋳鉄は、一度、硬くてもろい白鋳鉄として鋳造した製品に対し、長時間にわたる「焼きなまし」と呼ばれる熱処理を施すことで、組織を変化させて粘り強さ(靭性)を向上させた鋳鉄です。
この熱処理によって、もろさの原因となるセメンタイトが分解され、塊状の黒鉛が析出します。
これにより、鋳放しの状態に比べて衝撃に強く、延性のある材料へと変化します。
熱処理の雰囲気や方法によって、破面が黒い「黒心可鍛鋳鉄」と、破面が白い「白心可鍛鋳鉄」などに分類されます。
複雑な形状で、かつ強度と靭性が求められる自動車部品や管継手などに使用されていました。
合金鋳鉄:特殊な元素を加えて性質を強化
合金鋳鉄は特殊鋳鉄とも呼ばれ、基本的な鋳鉄の成分に加えて特定の性質を向上させる目的で様々な合金元素を添加した鋳鉄の総称です。
例えば、ニッケルやクロム、モリブデン、マンガンなどを加えることで、耐熱性、耐食性、耐摩耗性、あるいは強度といった特性を大幅に強化できます。
ニッケルを多く含むオーステナイト鋳鉄は、非磁性で耐食性や耐熱性に優れます。
また、クロムやモリブデンは硬度や高温強度を高める効果があります。
こうした特性から、合金鋳鉄は化学プラントのポンプ部品、自動車の排気系部品、各種金型など、過酷な環境下で使用される特殊な用途に利用されます。
鋳鉄を加工する際の重要なポイント
鋳鉄は優れた鋳造性を持つ一方で、その後の加工においてもいくつかの重要なポイントがあります。
特にねずみ鋳鉄は切削加工がしやすいという大きな利点を持っています。
加工対象となる素材は丸棒や板材の形で供給されることもあり、表面には「黒皮」と呼ばれる酸化被膜が付いているため、加工時にはこれを除去する必要があります。
建築分野でも構造部材や装飾品として利用されます。
加工時に発生する切りくずは細かくなりやすい特徴があり、リサイクル性に優れる点も鋳鉄の利点の一つです。
鋳鉄の切削加工がしやすい理由
鋳鉄、特にねずみ鋳鉄の切削加工がしやすい理由は、組織内に存在する片状黒鉛にあります。
この黒鉛が、切削工具と材料の間で固体潤滑剤のような働きをするため、摩擦が低減されます。
さらに、黒鉛の存在は切りくずを細かく分断する効果(切りくず処理性)をもたらし、連続した長い切りくずが出にくく、処理が容易になります。
これらの作用により、切削抵抗が小さくなり、工具の摩耗も比較的少なく抑えられます。
そのため、穴あけやねじ切り、切断といった除去加工全般を効率的に行うことが可能です。
加工後の表面も、研磨や磨きによって滑らかに仕上げられます。
加工精度を高めるための工具選びのコツ
鋳鉄は種類によって硬さや組織が大きく異なるため、加工精度を高めるには適切な工具選びが不可欠です。
ねずみ鋳鉄は比較的柔らかく加工しやすいですが、ダクタイル鋳鉄や白鋳鉄は硬度が高く、工具の摩耗が激しくなります。
また、鋳物の表面にある鋳肌や内部に含まれる砂などが工具刃先のチッピング(欠け)を引き起こすこともあります。
そのため、工具材質としては、耐摩耗性に優れた超硬合金が一般的に用いられます。
さらに高速・高能率な加工を目指す場合には、化学的安定性に優れ、より高温での加工が可能なサーメットや、非常に硬い材質であるCBN(立方晶窒化ホウ素)焼結体といった工具の選定が有効です。
なぜ鋳鉄の溶接は難しいのか?その理由を解説
鋳鉄の溶接が難しい主な理由は、その高い炭素含有量にあります。
溶接による急激な加熱と冷却の過程で、溶接金属やその周辺部(熱影響部)にマルテンサイトやセメンタイトといった非常に硬くてもろい組織が形成されやすくなります。
この硬化層は靭性が極端に低いため、溶接後に冷却が進む際の収縮応力に耐えられず、割れが発生する危険性が非常に高まります。
この割れを防ぐためには、溶接前の予熱や溶接後の後熱といった厳密な温度管理が不可欠です。
専用のニッケル系溶接棒を使用したり、低温で接合できるロウ付けといった溶接方法を選択したりするなどの工夫が求められます。
まとめ
鋳鉄は、その成分や組織によって多様な特徴を持ち、私たちの身の回りにある様々な製品に活用されています。
家庭で使うフライパンや鍋、コーヒーミルといった調理器具から、自動車のピストンリングやブレーキ部品、さらにはマンホールの蓋まで、その用途は広範囲にわたります。
優れた鋳造性、切削性、振動吸収性といったメリットを活かし、100年以上にわたり産業の基盤を支えてきました。
種類ごとの特性と加工上の注意点を理解することで、この有用な素材をさらに効果的に活用できます。
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