引っ張り強さとは?降伏点との違いやS-S曲線の見方を解説

引っ張り強さとは、材料に引張の力を加えた際に、破断するまでに耐えられる最大の応力を意味します。
材料の強度を評価する上で最も基本的な指標の一つであり、この値が大きいほど、より強い力に耐えることが可能です。
この記事では、引っ張り強さの基本的な意味から、設計上重要となる降伏点との違い、そして材料の特性を視覚的に理解できる「応力-ひずみ曲線」の見方までを解説し、材料選定や強度計算に必要な知識を提供します。
目次
引っ張り強さとは?材料が破断に耐える最大の力
引っ張り強さ(引張強さ、引張強度)は、材料試験において試験片に引っ張る力を徐々に加えていき、材料が耐えられなくなり破断する直前の最大応力のことです。
この応力は、試験中に測定された最大の荷重を、試験前の試験片の断面積で割ることで算出されます。
単位は一般的に「MPa(メガパスカル)」または「N/mm²」が用いられ、両者は等価です(1MPa=1N/mm²)。
この値は、その材料が持つ強度の上限を示す重要な指標であり、材料の機械的性質を比較したり、製品設計の基礎データとして利用されたりします。
ただし、この点を超えると材料は破断に向かうため、実際の設計では安全性を考慮し、この値よりも低い応力がかかるように計算されます。
応力-ひずみ曲線(S-S曲線)からわかる材料の特性
応力-ひずみ曲線(S-S曲線)は、引っ張り試験で得られた材料の応力(力)とひずみ(変形)の関係をグラフ化したものです。
この曲線を見ることで、材料が力を受けてから破断に至るまでの挙動、すなわち、どれくらいの力で変形し始め、どれくらいの力まで耐え、最終的にどのように破壊されるかという一連の特性を視覚的に把握できます。
S-S曲線には、比例限度、弾性限度、降伏点、そして本題の引っ張り強さ、破断点といった、材料の重要な特性を示す点がプロットされます。
①比例限度:応力とひずみが比例関係にある範囲
比例限度は、応力-ひずみ曲線の初期段階に現れる、グラフが直線となる領域の限界点です。
この範囲内では、材料にかかる応力と、それによって生じるひずみが比例関係にあります。
これは「フックの法則」として知られており、力を2倍にすれば伸びも2倍になるという関係が成り立ちます。
この領域では、材料に加えた力を取り除くと、変形は完全になくなり元の形状に復元します。
つまり、材料が弾性体として振る舞う範囲の始まりを示す点であり、ばねなどの弾性を利用する製品の設計において基本的な指標となります。
この比例限度を超えると、応力とひずみの関係は直線的ではなくなります。
②弾性限度:力を除くと元の形状に復元する限界点
弾性限度は、材料に加えた力を取り除いたときに、変形が残らず完全に元の形状・寸法に戻る限界の応力点を指します。
応力-ひずみ曲線上では、前述の比例限度と非常に近い位置にあり、多くの金属材料では両者を区別することが難しいため、実用上はほぼ同じ点として扱われることも少なくありません。
この弾性限度をわずかでも超える力を加えると、力を取り除いても完全には元に戻らず、わずかな変形(永久ひずみ)が材料内部に残ります。
つまり、この点は材料が弾性変形から、元に戻らない塑性変形へと移行する境界を示す極めて重要な指標です。
③降伏点(0.2%耐力):材料が塑性変形を始める時点
降伏点とは、弾性限度を超えてさらに力を加えた際に、応力があまり増加しないにもかかわらず、ひずみが急激に増加し始める点のことです。
この現象を降伏と呼び、材料が本格的な塑性変形(元に戻らない変形)を開始したことを示します。
軟鋼のような一部の材料ではS-S曲線上に明確な降伏点が現れます。
一方で、ステンレス鋼やアルミニウム合金などでは明確な降伏点が見られないため、代わりに「0.2%耐力」が用いられます。
これは、力を取り除いたときに0.2%の永久ひずみが残る応力値のことであり、実質的な降伏点として設計上の基準とされます。
④引張強さ(最大応力点):材料が耐えられる最大の応力
引張強さは応力-ひずみ曲線において材料が示す最も高い応力点です。
降伏点を過ぎた後、多くの金属材料は「加工硬化」という現象により変形が進むにつれて再び応力が増加していきます。
この応力がピークに達した点が引張強さ(TS:TensileStrength)であり材料が破断することなく耐えうる最大の応力を示します。
この点を超えてさらに変形を加えようとすると材料の一部がくびれ始め(ネッキング)応力は低下していき最終的には破断に至ります。
したがって引張強さはその材料の強度の上限を示す指標として材料規格などで基本特性値として必ず記載される重要な項目です。
⑤破断点:材料が完全に破壊される瞬間
破断点は応力-ひずみ曲線の終点であり引っ張り試験において試験片が完全に二つに断裂した瞬間の応力とひずみの値を示します。
引張強さのピークを越えると試験片の断面積が局部的に減少し始める「ネッキング」という現象が起こり荷重を支える能力が低下していくため破断時の応力(破断応力)は引張強さよりも低い値となります。
この破断点におけるひずみの大きさは材料の「伸び」として評価され材料の延性(どれだけ引き伸ばされるか)を示す指標となります。
伸びが大きい材料は破断するまでに大きく変形するため粘り強い(靭性が高い)材料であると評価されます。
【図解】引っ張り強さと降伏点(耐力)の明確な違い
引っ張り強さと降伏点(または0.2%耐力)は、どちらも材料の強度を示す重要な指標ですが、その意味は大きく異なります。
降伏点は「材料が元に戻らない変形(塑性変形)を始める限界点」であり、これを超えると部材は永久に変形してしまいます。
一方、引っ張り強さは「材料が破断に至るまでに耐えられる最大の力」を示します。
この二つの指標は、材料の評価や製品設計において異なる役割を持っており、その違いを理解することが極めて重要です。
設計上の基準となる降伏点(耐力)
機械や建築構造物などの設計において、部材が使用中に変形してしまうと、その機能や安全性が損なわれる恐れがあります。
そのため、設計では材料が永久変形しない範囲、つまり弾性限度内で使用することが大原則となります。
この基準となるのが、塑性変形が始まる降伏点(または0.2%耐力)です。
設計者は、実際に部材にかかる最大応力(使用応力)が、この降伏点を十分に下回るように、安全率を考慮して材料の選定や寸法の決定を行います。
したがって、引っ張り強さよりも降伏点の方が、製品が安全に使用できるかどうかの直接的な判断基準として重視されます。
材料の粘り強さを示す指標としての引っ張り強さ
引っ張り強さは、材料が破断するまでにどれだけ大きな力に耐えられるかを示す、その材料の強度的な限界値です。
この値が高いほど、単純に「強い材料」であると言えます。
また、降伏点と引っ張り強さの差が大きい材料は、降伏して塑性変形が始まってから破断するまでの間に、より大きな力に耐えられることを意味します。
これは、材料が変形しながらもエネルギーを吸収する能力、すなわち「粘り強さ(靭性)」が高いことを示唆します。
万が一、想定外の大きな力が加わった場合でも、すぐに破断せずにある程度持ちこたえることができるため、安全性の観点から重要な特性の一つです。
引っ張り強さを測定する「引っ張り試験」の概要
引っ張り強さをはじめとする材料の機械的特性は、引っ張り試験によって測定されます。
この試験は、JISなどの規格で定められた形状・寸法の試験片を用意し、その両端を試験機でつかんで、一定の速度でゆっくりと引っ張ることで行われます。
試験機は、試験片が破断するまでにかかる荷重(力)と、その際の試験片の伸び(変位)を連続的に記録します。
この測定データをもとに、荷重を試験片の断面積で割って応力を、伸びを元の長さで割ってひずみを算出し、応力-ひずみ曲線を作成します。
この曲線から、降伏点や引っ張り強さ、伸び、絞りといった材料の重要な特性値を求めることができます。
引っ張り強さの計算式と具体的な求め方
引っ張り強さの具体的な求め方は、引っ張り試験で得られたデータを用いた簡単な計算式で算出できます。
計算式は「引っ張り強さ(MPa)=最大荷重(N)÷試験片の元の断面積(mm²)」となります。
まず、引っ張り試験を行い、試験片が破断するまでの荷重の変化を記録し、その中の最大値を読み取ります。
これが最大荷重です。
次に、試験を行う前に測定しておいた試験片の平行部の断面積を求めます。
最後に、読み取った最大荷重をこの断面積で割ることで、引っ張り強さが算出されます。
この計算で得られる値は、変形による断面積の変化を考慮しない「公称応力」であり、一般的に材料の引っ張り強さとして示されるのはこの値です。
引っ張り強さに関するよくある質問
ここでは、引っ張り強さについて実務や学習の際によく疑問に思われる点について解説します。
特に、引っ張り強さが高いことの利点、工業分野で頻繁に目にする単位の関係性、そして材料を使用する環境が強度に与える影響は、材料選定や設計において重要な知識です。
これらのよくある質問への回答を通じて、引っ張り強さに対する理解をさらに深めます。
引っ張り強さが高い材料のメリットは何ですか?
最大のメリットは、より少ない材料断面積で高い荷重に耐えられる点です。
これにより、製品の軽量化や小型化、または同じ大きさでより高い強度を実現できます。
ただし、一般的に引っ張り強さが高い材料は硬度も高くなり、軟鋼などと比較して加工が難しくなったり、粘り強さが低下して脆くなったりする傾向があるため、用途に応じたバランスの取れた材料選定が重要です。
単位のMPaとN/mm²に違いはありますか?
いいえ、実用上の違いはありません。
「1MPa(メガパスカル)」と「1N/mm²(ニュートン毎平方ミリメートル)」は等価であり、同じ応力の大きさを表します。
MPaは国際単位系(SI)で定められた圧力・応力の単位です。
一方、N/mm²は力を断面積で割るという応力の定義を直接的に表した単位であり、特に機械設計や材料力学の分野で直感的に理解しやすいため、長年使われてきました。
どちらの単位も同じ意味で通用します。
温度は引っ張り強さに影響しますか?
はい、温度は引っ張り強さに大きく影響します。
一般的に、ほとんどの金属材料は温度が高くなるにつれて原子の結合力が弱まり、塑性変形しやすくなるため、引っ張り強さは低下します。
逆に、温度が低くなると強度は上昇する傾向にありますが、材料によっては粘り強さが失われ、脆くなる「低温脆性」という現象を起こすため注意が必要です。
そのため、使用される環境温度を考慮した材料選定が不可欠です。
まとめ
引っ張り強さは、材料が破断に耐える最大の応力を示す、強度評価の基本的な指標です。
一方で、実際の設計では、材料が元に戻らない変形を始める降伏点(耐力)が基準として用いられます。
これらの特性は、引っ張り試験によって得られる応力-ひずみ曲線から視覚的に読み取ることが可能です。
この曲線は、比例限度から弾性限度、降伏、そして引っ張り強さを経て破断に至るまでの一連の材料の挙動を示します。
本記事で解説した引っ張り強さや降伏点の意味、そして計算式の背景を理解することは、単に文字としての知識だけでなく、適切な材料を選び、安全な製品を設計し、品質を管理する上で実践的な力となります。
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