軸力とは?トルク・摩擦との関係と計算方法をわかりやすく解説

軸力とは、ボルトや構造部材の軸方向に発生する内部の力のことです。
特にボルト締結において、部材を固定する重要な役割を担います。
この力は、締め付けトルクと摩擦の影響を大きく受けるため、関係性を理解し、適切な計算で管理することが不可欠です。
この記事では、軸力の基礎からトルクや摩擦との関係、計算方法までをわかりやすく解説します。
目次
そもそも軸力とは?ボルトや部材に発生する内部の力
軸力とは、部材の軸(中心線)の方向に発生する力のこと。
力学における基本的な概念の一つです。
その定義や意味は、ねじ・ボルトの締結の文脈と、建築などの構造力学の文脈で少し異なって捉えられます。
どちらのケースでも、部材内部に発生する見えない力であり、物体の安定性や強度を理解する上で非常に重要です。
ねじ・ボルト締結における軸力:部材を固定する押し付け力
ねじ・ボルト締結における軸力とは、ボルトをナットで締め付けた際にボルト自身に発生する張力(伸びようとする力)を指し、締結力とも呼ばれます。
ボルトを回すと、おねじとめねじのらせん構造によってボルトが引き伸ばされます。
伸びたボルトは元に戻ろうとし、その反力として部材同士を強く押し付ける力が発生します。
この押し付け力によって、部品は強固に固定されます。
つまり、ねじ締結の本質は、ボルトという「ばね」を伸ばして、その復元力で物を挟み込んでいる状態を作り出すことです。
このため、適切な軸力を発生させることが、信頼性の高い締結を実現する上で最も重要になります。
構造力学における軸力:部材を伸縮させる引張力と圧縮力
構造力学において軸力とは、梁や柱といった構造部材の軸方向に作用する力を指し、引張力と圧縮力の2種類に分類されます。
部材を引っ張って伸ばそうとする力が引張力(張力)、部材を押し縮めようとする力が圧縮力です。
力の方向によって区別され、一般的に引張力を正(+)、圧縮力を負(-)として扱います。
例えば、橋や建築物などの構造では、ケーブルには引張力が、柱には圧縮力が主にかかります。
橋梁のトラス構造のように、部材ごとに引張力と圧縮力が複雑に組み合わさって全体の荷重を支えています。
これらの力の大きさと方向を正確に把握することが、安全な構造設計の基礎となります。
ボルト締結の重要要素!軸力・トルク・摩擦の切っても切れない関係性
ボルトを締め付ける際に与える回転力である「トルク」と、それによって発生する「軸力」は、一見すると単純な比例関係にありそうですが、実際は「摩擦」という要素が複雑に関わっています。
この3つの関係性を正しく理解することが、適切なボルト締結を実現するための鍵です。
トルクの多くは摩擦力によって失われ、意図した軸力を得られない原因にもなります。
締め付けトルクと発生する軸力の根本的な違い
締め付けトルクと軸力は、根本的に異なる物理量です。
締め付けトルクはボルトを「回転させる力」であり、ボルトを回すためのエネルギー投入量を指します。
一方、軸力はトルクが加えられた結果としてボルト内部に「発生する力」であり、部材を固定する機能そのものを担います。
トルクはあくまで軸力を発生させるための手段であり、目的ではありません。
この考え方を理解することが重要で、トルク管理は間接的に軸力を管理しているに過ぎません。
同じトルクをかけても、後述する摩擦の状態によって発生する軸力は大きく変動するため、両者の違いを認識しておく必要があります。
トルクの大部分が摩擦で消費され、軸力になるのは約1割
ボルトを締め付けるために与えられたトルクのエネルギーは、そのすべてが軸力に換算されるわけではありません。
実際には、与えられたトルクの約90%が摩擦による損失として消費されます。
この摩擦は主に2つの箇所で発生します。
1つはナットやボルト頭部が部材と接する「座面」での摩擦で、これが約50%を占めます。
もう1つはボルトの「ねじ面」での摩擦で、約40%を占めます。
結果として、ボルトを伸ばして軸力を発生させるために使われるエネルギーは、全体のわずか10%程度です。
この事実から、トルクだけを管理していても、摩擦の状態が少し変わるだけで軸力が大きくばらつく可能性があることがわかります。
摩擦係数のばらつきが軸力を不安定にする最大の要因
安定した軸力を得られない最大の要因は、摩擦係数のばらつきです。
摩擦係数は、ねじ面や座面の材質、表面の粗さ、潤滑剤(油など)の有無や種類、錆、汚れ、そして締め付け速度など、非常に多くの要因で変化します。
例えば、潤滑剤を塗布すると摩擦係数は低くなり、同じトルクでも高い軸力が発生します。
逆に、表面が乾いていたり錆びていたりすると摩擦係数が高くなり、軸力は発生しにくくなります。
このような摩擦係数の変化は予測が難しく、同じ締め付けトルクを設定しても、実際の軸力には大きなばらつきが生じる問題を引き起こします。
これがトルク法による軸力管理の難しさの根源です。
トルクレンチで管理する際に用いる軸力の計算式
ボルト締結の現場で最も広く用いられるトルク法では、締め付けトルクの値から軸力を間接的に算出します。
この計算には、トルク、トルク係数、ボルトの呼び径という3つの要素を含んだ基本的な公式が用いられます。
この式を理解することで、トルクレンチで設定した値がどのように軸力へと変換されるのかを理論的に把握できます。
最も一般的な計算方法「トルク法」の計算式【F=T/(K×d)】
トルク法における軸力の計算では、一般的に「T=K×d×F」という公式が用いられます。
この式を軸力(F)を求める形に変形すると「F=T/(K×d)」となります。
各記号の意味は以下の通りです。
F:軸力(N)
T:締め付けトルク(N・m)
K:トルク係数(無次元数)
d:ボルトの呼び径(m)
例えば、締め付けトルク(T)を決定したい場合、目標とする軸力(F)と、使用するボルトの呼び径(d)、そして摩擦条件から決まるトルク係数(K)を用いて計算します。
この式は、トルク、軸力、摩擦(トルク係数に集約)の関係性を示す、ボルト締結における最も基本的な計算式です。
計算の鍵を握る「トルク係数K」とは?
トルク係数Kは、締め付けトルクを軸力に変換する際の効率を示す重要な係数です。この数値には、ねじ面の摩擦係数、座面の摩擦係数、ねじのリード角といった、摩擦に関する様々な要素が集約されています。
トルク係数の値は一定ではなく、表面状態や潤滑剤の有無によって大きく変動します。例えば、潤滑がない場合のK値は0.2~0.3程度ですが、潤滑剤を使用すると0.15前後に低下します。このK値が小さいほど、同じトルクでもより効率的に高い軸力を得られることを意味します。しかし、前述の通り摩擦の状態は変化しやすいため、実際の現場ではK値を正確に把握することが難しく、これがトルク法における軸力ばらつきの主な原因となっています。
ボルトの呼び径dが軸力計算に与える影響
軸力の計算式におけるボルトの呼び径dは、軸力の大きさに直接影響を与える要素です。
呼び径とは、M10のように表記されるボルトのおおよその直径を指します。
計算式「F=T/(K×d)」からもわかるように、トルク係数Kと締め付けトルクTが同じであれば、呼び径dが大きいほど発生する軸力Fは小さくなります。
これは、径が大きいボルトほど、同じトルクをかけても回転させるための摩擦トルクが大きくなるためです。
また、ボルトが耐えられる軸力の限界は、その断面積(特に谷径から算出される有効断面積)に比例します。
したがって、必要な軸力を安全に確保するためには、ボルトの呼び径と強度区分を考慮して、適切な締め付けトルクを設計する必要があります。
なぜ軸力管理は重要なのか?不適切な場合に起こるトラブル
軸力管理は、ボルト締結の信頼性と安全性を確保するために極めて重要です。
設計で想定された軸力が得られない場合、様々な問題が発生します。
軸力が不足しても過大になっても、部品の機能低下や重大な事故につながる可能性があります。
設計段階で適切な安全率を考慮していても、施工時の軸力管理が不適切であれば、その性能を十分に発揮することはできません。
軸力不足が引き起こすボルトの緩みや接合部の滑り
軸力が不足していると、ボルト締結の最も基本的な機能である「緩み止め」の効果が十分に得られません。
被締結部材同士を押し付ける力が弱いため、機械の運転中に発生する振動や衝撃といった外力によって、ナットが徐々に回転して緩んでしまうのです。
また、接合部に横方向の力がかかった場合、摩擦力で抵抗できずに部材同士が滑ってしまう「せん断滑り」が発生するリスクも高まります。
ボルトの緩みは、部品の脱落や性能低下、異音の発生など、様々な不具合の直接的な原因となり、重大な事故につながる危険性もはらんでいます。
過大な軸力が原因で起こるボルトの伸びや破断
必要以上に大きい軸力をボルトに与えてしまうと、ボルトの材料が持つ弾性の限界を超えてしまい、塑性変形を引き起こします。
塑性変形とは、力が取り除かれても元の形に戻らなくなる状態のことで、いわゆる「ボルトが伸びきる」現象です。
この状態になると、ボルトは適切な軸力を維持できなくなり、再利用もできません。
さらに過大な軸力がかかると、ボルトはその強度限界を超えてしまい、締め付け中あるいは使用中に突然破断することがあります。
特に、高い締め付けトルクをかけた際に発生する「ねじ切れ」は、過大軸力が原因である典型的なトラブルです。
疲労破壊を早め、製品の寿命を縮める可能性
不適切な軸力は、ボルトの疲労破壊を早める原因にもなります。
ボルト締結部には、運転中に繰り返し変動する外力がかかることが多く、これが疲労の原因となります。
適切な初期軸力が与えられていれば、ボルトにかかる変動応力は小さく抑えられ、疲労強度は高く保たれます。
しかし、軸力が不足していると、外力による応力の変動幅が大きくなり、ボルトが疲労しやすくなります。
逆に軸力が過大であると、常に高い平均応力がかかっている状態になるため、これもまた疲労寿命を縮める要因となります。
結果として、設計寿命よりも早くボルトが破断する問題につながります。
適正な軸力を得るための主な管理方法
適正な軸力を確保するためには、精度の高い軸力管理が不可欠です。
管理方法にはいくつかの種類があり、それぞれに特徴や適用範囲が異なります。
締め付けトルクを基準にする方法から、ボルトの回転角度や物理的な伸びを直接測定する方法まで、要求される精度やコストに応じて最適な手法を選択します。
ここでは、代表的な軸力管理の方法を紹介します。
トルクレンチを用いた「トルク法」による管理
トルク法は、トルクレンチを使用して締め付けトルクを管理することで、間接的に軸力を管理する最も一般的で手軽な方法です。
あらかじめ計算や実験によって目標軸力に必要な締め付けトルクを定めておき、その値になるようにトルクレンチで締め付けます。
この方法は、作業が簡単で特別な測定機器も不要なため、幅広い現場で採用されています。
しかし、前述の通り、トルクと軸力の関係は摩擦係数の影響を大きく受けるため、軸力のばらつきが大きくなりやすいという欠点があります。
そのため、潤滑剤の塗布を徹底するなど、摩擦条件をできるだけ一定に保つ工夫が求められます。
ボルトの伸びを直接測定する「伸び管理法」
伸び管理法は、ボルトの弾性限度内では軸力とボルトの伸びが比例関係にあることを利用した、非常に精度の高い管理方法です。
締め付ける前と後のボルトの全長をマイクロメータなどで精密に測定し、その差(伸び)からフックの法則に基づいて軸力を算出します。
この方法は、摩擦の影響を一切受けないため、極めて正確な軸力管理が可能です。
ただし、ボルトの両端面が測定のために加工されている必要があることや、測定に手間と時間がかかることから、エンジンやプラント設備など、特に高い締結信頼性が求められる重要な箇所に限定して用いられることが一般的です。
超音波で測定する「超音波軸力測定法」
超音波軸力測定法は、ボルトに軸力がかかると超音波の伝播時間が変化する現象を利用して、軸力を測定する方法です。
専用の超音波軸力計のセンサーをボルト頭部に当てるだけで、非破壊で軸力を直接測定できます。
この方法は、伸び管理法と同様に摩擦の影響を受けず、高い精度で軸力を管理できる利点があります。
また、締め付け後でも軸力の変化を監視できるため、定期的なメンテナンスにも活用できます。
一方で、測定器が高価であることや、測定するボルトごとに音速などの初期設定が必要になるため、航空宇宙分野や重要インフラなど、特に厳密な品質管理が要求される分野で主に採用されています。
軸力に関するよくある質問
ここでは、軸力に関して現場や学習の過程で生じやすい疑問や問題について回答します。
トルク管理の難しさや図面上の表記、材料強度との関連など、より深い理解につながるポイントを解説します。
トルクレンチで指定通り締めても軸力が安定しないのはなぜですか?
締め付けトルクの約9割は摩擦で消費されるため、ねじ面や座面の摩擦係数が少しでも変化すると、発生する軸力が大きくばらつくからです。
潤滑剤の有無、錆や汚れ、締め付け速度などが摩擦係数を変動させる主な要因であり、トルク管理の不安定さにつながります。
図面で見る「軸力S」とは何を指していますか?
図面における「軸力S」は、構造計算で部材に作用する軸方向の力を示す記号で、一般に引張力を正(+)で表します。
建築や土木の分野で用いられる表記で、部材が引っ張られているか圧縮されているかを示します。
単位は通常、N(ニュートン)やkN(キロニュートン)が使われます。
降伏点や耐力は軸力とどう関係しますか?
降伏点や耐力は、ボルトの材料が塑性変形(元の形に戻らない変形)を起こし始める応力の限界値です。
軸力がこの限界を超えるとボルトは伸びきってしまい、適切な締結機能を失います。
安全な締結のためには、軸力を降伏点や耐力の70~80%程度に設定するのが一般的です。
まとめ
軸力は、ボルト締結や構造設計において安全性と信頼性を左右する重要な力です。
ネジの締結では、締め付けトルクと摩擦の関係を理解し、目標とする軸力を安定して得ることが課題になります。
トルク法が一般的ですが、摩擦係数のばらつきという問題を考慮する必要があり、より高い精度が求められる場合には伸び管理法や超音波測定法も選択肢です。
軸力が不足すれば緩み、過大であれば破断につながるため、設計意図に基づいた適切な軸力管理が求められます。
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